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自殺した人をわざわざ探しに行き、じっさいみつけた話②

Categoryむかしの話
墓場は本当にすぐ近くでした。

私と友人は暗い道を進み、ある地点に辿りついたとき、友人が「ここ」と立ち止まったのですが、
彼女が懐中電灯で照らした場所に現れたのは、すごく急なすごく長いコンクリートで舗装された坂道でした。

「ここを上がるの?」

「そう、気をつけてね、左側、斜面になっててお墓がずらーってあるから」


要するに「山」と言ってもいいようなこんもりとした森を形成する丘があり、そこを切り拓いて霊園が造られているわけでした。

斜面は段々畑のようなつくりになって墓石がぎっしり並び、その脇の私たちが登っている坂道はいちばんてっぺんの切り拓かれた広い場所まで続いていました。





コンクリートの急な坂を登りきり、私と友人は頭を巡らせて拓けたその場所をぐるりとみまわしたのですが、

おそらくふたり同時に左手前方の、ひときわ暗い小さな森になっている場所に目がいき、
そしてすぐに、その暗黒の森の手前に停まっている黒っぽい車にくぎ付けになりました。



今振り返るとおかしなもので、まだその時点では、この車が、老夫婦が見たという「長野ナンバーの車」だなど、いくら偶然でもそんなことがあるはずないと考えていたのです。


だけど、近づいてナンバープレートを確認した瞬間、顔をみあわせて戦慄することに…。


「長野だ」

「長野だね」

お互い一言ずつしか言葉が出ず、なのにまるでアドレナリンが異常分泌したかのようにハイテンションな精神状態になってしまったんですよね…。




長野ナンバーの車。

懐中電灯の灯りに照らしだされたその車は、ひと目見て、昨日今日そこに停められたのではないことが歴然としていました。

車は埃まみれで、なぜかアンテナが立ててあり、そのアンテナとルーフとの間にできた鋭角に蜘蛛の巣がかかっていました。

運転席側のドアに鍵が刺さっていて、友人が鍵のついたまま引くとドアはあっさりあきました。




中を覗いて、ふたり同時に悲鳴をあげました。
いきなり目に入ったのは、運転席まわりに大量に貼り付けられた魔除けの水晶玉やお札…。



これは…もう…。





「ねぇ、もう通報した方が…」

私はそう言いました。

だって何日も放置された無人の車のドアに鍵が刺さっていたことだけでおかしいし、
何と言っても魔除けの量が尋常でなさすぎる。

もうこの不可解な車の件だけで、警察に通報する理由がある、と思ったのです。



友人が言いました。

「でも、まだはっきりしないのに、警察になんて言うの?」

「く…車が変なんです…とか」

「で、なんでこんな時間にこんなとこに来たのか聞かれたら?」

「…………」



私はもう怖くてちびりそうで、この冷静沈着な友人にはなにも逆らえそうにないと悟り、黙りこみました。


友人が運転席の下から何か書類袋のようなものが見えているのに気づき、

「ちょっと見させてもらいますね」などと誰にともなくつぶやきつつ、中身を引っ張り出したのですが…、









もうね、
アカラサマでした。

書類袋はふたつ。
ひとつはハローワークのもので、中身はまぁハローワークで頂いてきたものだろうと思われるものでした。

もう一つは、誰もがその会社名を知っているであろう大きな会社のもので、
中身は解雇通知でした。



こんなアカラサマなことってあります?

まるで作り話のようですけどね、本当に本当に事実なんです。


その後も、出てくるものすべてがアカラサマすぎて出来すぎで、
まるで三流ドラマの小細工のようでした。





アカラサマな書類袋を座席の下に戻し、何かに取り憑かれたかのように、友人は私にこう言いました。

「後ろの座席、見てね。あたしダッシュボードを見るから」




後ろ。

それはそれは、本当にさらにアカラサマすぎました。


まず目についたのがコーヒーの空き缶。
10や20じゃないのです。
50個はあったでしょう。

すべて同じ銘柄のコーヒーでした。



食べ物の残骸がない、と思いました。
飲み物だけ。
食べ物を食べた形跡がない。




それから、裏返しに脱がれたフードつきトレーナーが1着。

それから…



ふと後部座席の足元を見ると、果物ナイフと、そしてロープが…。

ロープは黄色と黒の、よく見かけるあの丈夫なナイロンのロープ、

ナイフもロープも、パッケージが破られていなくて未使用の新品でした。






「まるにゃん!」

友人に呼ばれてハッとなって振り向くと、助手席から身を乗り出した友人が私に何かを見せていました。

「保険証! この住所で連絡先がわかるかも! やっぱり長野県だよ」




そ、それはもう警察の仕事なんじゃ…
と思ったけれど、もう口が固まっていて、なんにも言うことができず。。



自分が発見したものは、怖すぎてもっと口にできなかったし。







けど、もうダメだと限界に達したのは、この直後でした。

後部座席のシートの隅に、小さめのコンビニの袋があり、その中身を取り出した時、ついに私も声が出ました。


「しのぶちゃん! もうだめ! 警察に電話しよう!」



コンビニの袋から出てきたのは一冊の便箋とボールペンでした。

こともあろうか、私の指は自動的に表紙をめくってしまったのです。


そこには、人が、
直後にこの世を去ろうと決意した時にしか書かないであろう言葉が書かれていました。


ひとつひとつの文字が異常に大きくて、わざとでは絶対にできないほど小刻みにギザギザに歪んでいて。






私は友人にそれを見せ、

「ね、警察に電話しよう」

と再び言いました。
こくん、と友人も頷き、私たちは車を出てドアを閉めました。






でも私の友人はタフでした。

いや、タフというか、優しすぎるというべきなのかわからないんだけれど、





「でもね、警察の前に見つけてあげよう! ね、そうしよう!」


そう言って引きさがりません。






私たちはしばらく見つめ合いました。

そして、心を決め、
車の停まっている場所の前方に真っ暗な口を開けている森の奥へ、ゆっくりと入っていきました。


私が左手で懐中電灯を持ち、友人が右手に。
余った側で腕を組んで、一歩一歩踏みしめながら歩きました。



前日の雨で道が少しぬかるんでいたので、足元が悪くてなおさら緊張感が…。








ものの1分でした。

歩き出してものの1分で、私たちは「彼」をみつけたのです。



左側を照らしていた私の懐中電灯が、ふわっと少し上方へ振れたその瞬間、

あり得ない高さの中空を
「彼」はうなだれてそこに…。







友人が声にならない悲鳴をあげ、
ふたりでぬかるみの道をどうやって車のところまで戻ったか、覚えていません。



すぐに110に電話をかけ、
110から管轄へかけ直せと言われ、管轄の警察署にかけて「いらっしゃる」ことを伝え、


まず覆面パトカーで刑事がふたり、
普通のパトカーが4台、
さらにマイクロバスみたいなのが着いてそこから警察犬が数頭、


私と友人は
「どこ」なのかを明らかに示さなくてはならないと言われ、
再びその場所へ行くはめになりました。

もう上方を見ることはできないので、
ふたりして顔を上げずに指で「あの辺りと思います」のように示し、

「あ~、本当だね」

と刑事が確認して、それで終わりと思ったら大間違いだったわけで。





ひとりずつ立ったまま、懐中電灯の灯りの下、本籍の住所まで言わされ、
なんかいろいろと書類に書き込まれ…。

事情聴取って言うんですか⁈
長々とパトカーの中で話をさせられました。






もうね、何が困ったかって、なぜこんな夜中に墓場で自殺体を発見したりしたのか、
その経緯を説明しても、とりあえずすぐに信じてはもらえなかったことです。


友人が1ヶ月だけバイトしていた時の同僚の祖父母が、首吊り死体を発見したのに見なかったことにして放置…その話を職場で小耳に挟んだから確認しに来た、

そりゃそんな奇怪な話を俄かには信じられないのは当たり前ですよね。





けどまぁ、何度も何度も説明した甲斐あって、なんとか信じてもらいました。






「あ~、本当だね」

と「彼」を最初に確認した刑事がパトカーの中で待機させられている私と友人のところへ来ました。


「今からね、搬送する車両がくるから。まだもうちょっと時間かかるからこのままいてよ」



は…搬送…(ll゚ω゚)



「それにしても勇気あるなぁ、わざわざ見つけに行くなんて。でも、あるかどうか、もうこの辺りでわかってたでしょ?」




『あるかどうか』



私たちの乗ったパトカーは、坂道を上がり切ったすぐの場所で、
「彼」が発見された森からはだいぶ離れていたのです。

なので刑事が何を言っているのか、意味がわかりませんでした。



「わからなかった? 見る前から、もうこのあたりからすぐ感じたけどね」



私も友人も、ふたりとも刑事に何も返事しないでいると、
パトカーの運転席の警官が、

「この人たち、だいぶ飲んでるみたいですから」

と口を挟んできました。
すると、刑事がこう言ったのです。

「あーそうか。お酒で鼻が麻痺してるのか。へぇ…そんなに飲んだの?」





(OдO)








もうね…

刑事が言っている意味がわかった時には生きた心地がしませんでした。


「でもみつけてくれて助かったよ。あと…何日か遅かったらねぇ…たぶんもっと手がかかってたからねぇ」

「たぶん1ヶ月以上は経ってるようだから。昨日の雨でだいぶダメージもあったかもだしね」

「ま、いま降ろしてるから、済んだら帰ってもらっていいから」

「とにかくご苦労さん!」








刑事が去ると、パトカーの警官がやたらしゃべりだしました。

「いや~、お酒でわからなかったんだねぇ。わからなくてよかったよ。僕ら慣れっこだけど、慣れっこだから逆にだいぶ離れたとこからでもすぐにわかるからねぇ」




この警官があまりに話しかけてくるので適当に相手をした記憶がありますが、詳しいところは忘れてしまいました。

内容として覚えているのは、この数年毎年自殺者が増えていること、遠くから死ににくる人が不案内な土地で「場所」をみつけるのがなぜか大変うまいということ、
つまり、すぐには発見できないような、地元の人しか知らないような「最適な場所」を、そういう人たちはなぜかどうにかしてみつける、と。


パトカーの警官はなぜかわからないけど私と友人に名刺をくれました。

名刺の肩書きは完全に忘却してしまったけど、名前は千葉さんだったのだけ記憶にあります。

名刺は、いつのまにか失くしてしまった。






警察犬が車に戻され、その車がまずいちばんに去りました。

しばらくすると搬送車が到着し、搬送車からなにやらテカテカしたユニフォームを着た人がゾロゾロと出てきて、
いきなりものものしくなりました。





その時、いきなりかん高いデジタル音が鳴り、私は座席から飛び上がりそうになりました。

鳴ったのは私の携帯電話で、少年からの電話でした。






次回へ続く

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